ALL
RSS
2009.11.16up
米国版「VOGUE」編集長が明かすファッションメディアの現実 アナ・ウィンター




AnnaWintourpic01.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 世界のすべてのファッションショーで、最前列を保証されている女性がいる。金髪のボブカットに黒いサングラスがアイコンの彼女は米国版「VOGUE」誌のアナ・ウィンター編集長。映画「プラダを着た悪魔」のモデルになったとされる、ファッション界の最強オピニオンリーダーだ。その彼女の働きぶりを追ったドキュメンタリー映画「ファッションが教えてくれること」はファッションメディアの意義や、アナの存在感にあらためて気付かせてくれる。


 映画の英語タイトル「The September Issue」は「9月号」という意味。「ヴォーグ」の9月号は毎年、秋ファッションを総まとめする特大号となり、その厚さは電話帳ほどにもなる。映画はその膨大な作業量の編集作業を追う。


AnnaWintourpic02.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 「VOGUE」ぐらいの巨大メディアになると、編集方針が会議を重ねて民主的に決まっていると思われがちだ。しかし、この映画では主立った決定のすべてをアナがたった1人で下していく様子が描かれている。優秀な編集スタッフが苦労してまとめた記事や写真素材を、アナは一刀両断でボツにしていく。どの雑誌も編集長というのは、己の感覚に自信を持って、独断で方向性を決めていくものだが、アナの決断の早さと確かさは際立って見える。


 アナの毅然とした陣頭指揮には威厳すら漂う。編集スタッフの労作でも瞬時にジャッジし、時にだめ出しする姿は「暴君」に映ることもあるが、優柔不断とはほど遠い。揺るぎない決断力は編集長のあるべき形を示してもいる。


AnnaWintourpic03.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 彼女の到着を待ってショーが始まるのも珍しくないほど、別格の扱いを受けている。ランウェイを見つめるアナの目は黒いビッグサングラスで隠されている。彼女がどんな作品に目を留め、表情を変えたかを、周囲に悟らせないためだとされる。それほどアナの評価は影響度が大きく、彼女の判断次第で、新しいトレンドが生まれ、新人デザイナーがスターになると言っても、過言ではない。


AnnaWintourpic04.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 デザイナーはそれぞれにシーズンごとの傾向を打ち出す。色だけをとってみても、黒やナチュラルカラー、強い色、蛍光色など、様々な異なる色が1つのコレクションシーズンで披露される。そのうち、どの色が今シーズンのトレンドカラーかを、雑誌は整理して切り出してくれる。雑誌がなければ、流行は消費者に分かりやすく伝わらない。


 流行が形をなさなければ、ヒット商品も生まれず、ファッションビジネスは盛り上がりを欠く。消費者も何を買っていいのか、店頭で迷ってしまいがちになり、ショッピングを楽しむ気分にもなりにくくなってしまう。つまり、ファッション雑誌はファッションビジネスの潤滑油のような役割を果たしているわけだ。「VOGUE(=流行)」という雑誌タイトルのゆえんでもある。


 ただ、ファッショントレンドはモード界が決めつけたものだけではなく、ストリートから生み出される場合もある。近年の「森ガール」などは消費者の気分に合った商品が売れた格好で、自然発生的とも言える。こういった消費者発信型のトレンドは、これまでの作り手発信型に続く、新たなファッショントレンドの生み出し方となっている。


 「ファッションの流れは消費者主導型に動いている」。バーニーズ ニューヨークのクリエイティブ・ディレクターであるサイモン・ドゥーナン氏の言葉だ。「今や消費者が王様、女王様なのだから」と、アナも発言した。作り手主導が続いてきたファッション業界のものづくりも「ファッションの民主化」の方向へ変わってきつつある。それと同時に、ファッション誌の役割も変化し始めている。


 モードの流れを追うのがファッション誌の仕事だと思われがちだが、アナの仕事は受け身ではない。自らモードを発信し、仕掛けていく。その一例がテイストミックスの提唱。アナは1988年、米国版編集長に就任した最初の号で「ラグジュアリー&チープ」のミックスを提案した。1万ドルの「クリスチャン・ラクロワ」のTシャツと、50ドルのデニムをコーディネートしたこの「ハイ&ロー」のスタイルはその後、現在に至るテイストミックスの流行を呼び込んだ。今から20年以上も前の事だ。


AnnaWintourpic05.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved 



 これも今では当たり前になったセレブリティーのファッションアイコン化もアナが火つけ役になった。80年代はいわゆる「スーパーモデル」の全盛期だったが、うわべの美しさとモデルの思い上がりが読者を遠ざけ始めていると気付いたアナはモデルに代わる存在として、プロのモデルではない女優や著名人を「セレブリティー」という扱いで取り上げ始めた。読者の気持ちをリアルに感じることのできる編集長という立場だからこそできた仕掛けだが、他誌の先を越した点を見ると、やはりアナの先見の明に驚かざるを得ない。


 絶対的な影響力は米国版「VOGUE」誌を別格のメディアに成長させた。例えば、2009年3月号の表紙を飾ったのは、米国のファッションアイコンとなったミシェル・オバマ米大統領夫人。ファーストレディーをファッション誌の表紙に招く快挙を実現したのは、ファッションメディアのクイーン、アナだった。どの女性誌にもできなかったこのスクープショットは、アナ率いる「VOGUE」だったからこそ可能になった。


AnnaWintourpic06.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 ジャーナリスティックな感覚に基づいて、ファッション界の不適切な慣行にも、アナは軌道修正を促す。例えば、ファッションショーの開始時間。1時間遅れは当たり前といった緩いスケジューリングが当たり前だったが、「遅刻常習犯」だったマーク・ジェイコブス氏をアナが戒めた結果、マークのショーはほぼ定刻に始まるようになった。劇的な変化だ。米国の大手流通業者トップが「商品の入荷がスケジュール通りにならない現状をどうにしかしてほしい」と、アナに頼むシーンもこの映画には収められている。


 新たな才能をファッションビジネスに供給する「コーディネーター」としての顔を、アナは持つ。気鋭の新進デザイナーを、ビッグメゾンやアパレルメーカーに紹介し、クリエーションの場を広げることに、アナは一役も二役も買っている。例えば、「ルイ・ヴィトン」のクリエイティブディレクターとしてマークを推薦したのもアナだった。LVMH モエヘネシー・ルイヴィトンの総帥、ベルナール・アルノー氏はアナの助言がマーク起用の決め手になったと語っている。アルコールとドラッグへの依存を断ち切るために、マークへリハビリ施設入りを勧めたのもアナだったとされる。


 鬼才ジョン・ガリアーノ氏を「クリスチャン・ディオール」のクリエイテイブデザイナーにプッシュしたのも実はアナ。ガリアーノ氏は「アナがいなかったら、僕はこうやってディオールのメゾンにはいなかった」と、アナ抜きでは現在のキャリアがなかったことを認めている。さらに、最近ではトム・ブラウンを「ブルックス ブラザーズ」に推薦して新ライン「ブラック フリース」の成功を導いた。アメリカントラッドのシンボル的ブランドはアナのアドバイスのおかげで、華麗に復活を果たした。


AnnaWintourpic07.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 映画の中でもニューヨークコレクション参加の実力派デザイナー、タクーン・パニクガル氏(ブランド名「タクーン」)がアナのオフィスを訪ねる場面がある。カジュアルブランド「GAP」とのコラボレーション企画のデザイン画をアナに見せて、事前に評価をもらおうというのだ。第一線のデザイナーがファッション誌編集長に助言を求めるのは、日本の感覚ではかなり異例だが、このエピソードもアナへの信頼感の大きさを物語る。


 そもそもタクーン氏はアナが立ち上げに関わった「CFDA/ヴォーグ・ファッション基金アワード」の入賞者。このアワードの入賞者は「GAP」とのコラボに参加できるチャンスが与えられる。アナは新鋭デザイナーがメジャーブランドとのコラボを通じてステップアップするチャンスを用意してくれてもいるわけだ。2008年は同じニューヨークコレクション参加のアレキサンダー・ワン氏が受賞し、「GAP」とのコラボを実現している。


AnnaWintourpic09.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



 最近もアナが仕掛けたショッピングイベント「FASHION'S NIGHT OUT」が成功を収めた。ファッションビジネスを元気づけようと、午後11時台までナイトショッピングが楽しめるようにしたワンナイト・イベントだ。日本では東京の表参道・青山エリアで実施され、にぎわいを演出した。世界13カ国・地域の「VOGUE」が世界規模でコーディネートしたこのイベントで、アナは提唱者の1人に名を連ねた。デザイナー支援、ショップ売り上げ増にまで貢献するアナの仕事ぶりはもはや編集長の枠すら飛び越えつつある。


 ファッションは産業であると同時に文化でもある。それだけに、彼女のようなメディア人がファッションビジネスに果たす役割は大きい。ファッション界にとってアナは「プラダを着た女神」とすら呼べる。就任22年を迎えたアナが11月に60歳となって次にどんなムーブメントを仕掛けてくれるのか、これからも目が離せそうにない。


AnnaWintourpic010.jpg

(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved



(ファッションジャーナリスト 宮田理江)


映画「ファッションが教えてくれること」
http://www.klockworx.com/movies/movie_64.html
11月7日(土)より新宿バルト9他にて公開
(C)2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved


このページのTOPに戻る
event
DAY STUDIO★100 東京・大阪で受講受付中!
Lab
バンタン電脳ゲーム学院の独立支援機関「WASABI」が開発したFacebook・mixi のゲームアプリ「すぷりん」、2月15日よりサービス提供開始!!
バンタンが取り組む社会貢献活動についてご紹介します
ヴィーナスハイスクール
バンタンハイスクール
Vantan International Program
バンタンデザイン研究所
バンタンヘアスタイリングラボ(美容師養成校)
ヴィーナスアカデミー
Copyright (c) Vantan Inc.All Rights Reserved.